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横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)2925号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

野田房嗣

千葉景子

被告

右代表者法務大臣

遠藤要

右指定代理人

田中澄夫

外八名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  (当事者)

原告は、昭和五七年四月七日傷害罪により、同二八日軽犯罪法違反の罪により各起訴され、同年五月七日以後横浜拘置支所(以下「支所」という。)に刑事被告人として勾留されていた在監者である。

被告は、その公権力の行使に当る公務員として、支所に支所長以下の職員(以下「職員」という。)を配置している。

2  (職員の違法行為)

(一) 職員は、昭和五七年八月九日から同月一二日まで、原告を保護房に収容した(以下「本件保護房収容」という。)。

原告は、本件保護房収容期間中に、職員に対し、弁護士への連絡を要求し、また、来たるべき公判期日に意見陳述書を提出したいのでその作成用具を保護房に入れてほしい旨の要求をしたが、職員は、いずれの要求にも応じなかつた。

更に原告の兄が本件保護房収容期間中である同月一二日に職員に対して原告との面会を求めたところ、職員は、右兄の面会申出を拒否して同人を原告と面会させなかつた。(以下「本件面会拒否」という。)

(二) 職員は、昭和五七年八月一九日、原告が同月四日に看守に対する抗弁をし、もつて、未決収容者遵守事項(以下「遵守事項」という。)に違反したものとして、これにつき懲罰審査会を開催し、同月二〇日、原告に対し、一五日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する処分を決定し(以下「本件第一回懲罰」という。)、同日これを言渡し、同日から同年九月三日まで、同懲罰を執行した。

職員は、同懲罰期間中、原告に対し、戸外運動及び入浴を禁止し、原告にこれらをさせなかつた。

(三) 職員は、昭和五七年九月二一日、原告の本件第一回懲罰期間中の拒食及び点検拒否並びに同月二〇日の取調べのための連行の拒否につき懲罰審査会を開催し、同月二二日、原告に対し、七日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する処分を決定し(以下「本件第二回懲罰」という。)、同日これを言渡し、同日から同月二九日まで、同懲罰を執行した。

(四) 職員は、昭和五七年一〇月七日、原告の本件第二回懲罰処分言渡しのための連行の拒否及び同懲罰期間中の拒食につき懲罰審査会を開催し、同月八日、原告に対し、七日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する処分を決定し(以下「本件第三回懲罰」という。)、同日これを言渡し、同日から同月一五日まで、同懲罰を執行した。

3  (本件保護房収容及び同期間中の行為の違法性)

(一) (本件保護房収容の具体的経過とその違法性)

(1) 昭和五七年八月四日、看守が原告の居房の窓の外からいきなり用件も告知しないまま「名前は」と訊ねたため、原告は「甲野」と返答した。

ところが、同看守は「もういつぺん言つてみろ」と重ねて要求を繰り返したため、原告は同看守が原告を公判廷に連行したことがあること、数回にわたり原告に対し差入物を手渡していること等から原告が甲野であることを充分認識したうえでの名前の確認に名をかりたいやがらせであると判断したが、再度「甲野だ」と返答した。

ところが、同看守はなおも「甲野だけじやわかんねえじやないか。名前を聞かれたら下まで言うんだ。もういつぺん下まで全部言つてみろ」とどなりつけてきたため、原告は「いやがらせはやめて早く用件を言つてくれ」と要求し、その結果ようやく、同看守は「面会だ」と用件を告知した。

その後原告は直ちにぞうりを持つて出房の準備をしたところ、同看守は理由もなく房の扉の前にしばらく佇立し、扉を開けようとしなかつた。

(2) 面会終了後原告は居房に戻ることなく、その足で理由も告知されないまま看守らによつて取調室に連行された。

同所において、保安課職員数名がそれぞれ「キオツケ」などと叫び恣意的な指示命令への服従を要求してきたため、原告はそれに従う必要はないと判断し、「用件は何だ」と質問したところ、「暴言につき取調べを行う」と答えたため、原告としては暴言を発した覚えは全くないため「それならば応ずるつもりはない、暴言をしたか否かは看守本人が一番良く知つていることだ」と説明し、居房に房ろうとした。

ところが保安課職員らは居房に戻ろうとする原告を取り囲んだうえ「お前はうるさいと言つたんだろう」などと言いながらつめ寄り、あるいは取調室の出口の前に立ちはだかり、さらには自ら腹部を突き出して原告にぶつかつてきたあげく「暴力をふるうつもりか」などと発言し、また看守ら自らが声をはり上げておきながら、「甲野、静かに話せ、興奮するな」などとわけもない発言をくり返し、まさに挑発としか言いようのない言動に終始した。

原告は職員らの不必要かつ不当な言動に従う必要はないと考え、職員らの拘束からようやくまぬがれて居房に戻つたが、即時居房入口には「取調べ」の木札がかけられた。

(3) 同月九日、連行係職員が原告の居房にあらわれ、「取調べ」があるので保安課へ出頭するよう要求したため、原告は同職員に対し取調べ受任義務がないことから、①用事があるならば保安課の方から出向くのが本筋であること、②「取調べ」自身が不当なデッチ上げ(看守に暴言をはいたということは事実に全く反すること)に基づくものであること、③したがつて出頭する意思のないことを告知したところ、同職員は「そうか、わかつた」と言つてひき返した。

(4) しかるにその直後、七、八名の看守を率いた保安課本部区長が原告の居房にあらわれ、いきなり「連行する」と叫ぶや、看守らは土足で原告の房内になだれ込み、机に向つて座つて刑事訴訟記録を検討、筆記していた原告を房外に引きずり出したうえ、原告の両手、両足を看守らの各一名ずつが捉えてかつぎ上げ、口にタオルを押しあてて、そのままの態勢で保護房へ連行し、収容するに至つた。

(5) 以上のとおり、職員は、原告に保護房収容の合理的必要又は要件がなかつたのにもかかわらず、いきなり原告を保護房へ連行し、収容したものであるうえ、同収容期間中原告の運動入浴を禁止して体力健康を著しく劣弱化したものであるから、本件保護房収容は違法である。

(二) (保護房の設備、構造及び設置運営とその違憲性)

(1) 保護房(以下単に「房」ともいう。)の壁は、緑色の原色のリノリュームが全面に張られ、房の外からの監視設備として入口脇には死角を作らないように設計されたのぞき窓が設けられ、また、のぞき窓とは別に直径七、八センチメートルの魚眼レンズが壁面に埋め込まれている。

(2) 窓は一か所であり、しかも鉄製枠による立方体のガラスブロックが埋め込まれたものであるため日光はほとんどさしこむことがない。わずかに昼夜の区別がつく程度である。

(3) ドアは壁とほぼ同一の厚さがあり、内側にノブはなく収容中は外からカギがかけられている。

(4) 天井には昼夜を問わず点灯されている蛍光燈及びテレビカメラが鉄製のケース入りで設置されており、それぞれ透明な強化ガラスにより直接触れることができないようになつている。

(5) 床には、ホコリが堆積し、しばしば毛髪が散乱している。

(6) 房の奥両すみに便器と洗面所が床を掘つた形で埋め込まれているが、便器は水洗ではあつても房内からは流水の操作はできず、洗面所も水道の蛇口は付いているものの房内に栓はない。

給水や流水はすべて房外の看守に依頼して行わなければならない。

(7) 房内は完全密室化されている(ただし蟻、ゴキブリなどの侵入は防止されていない。)ため換気が極めて悪く換気扇が設置されている。換気扇は、一日中一時間につき五〇分作動し一〇分停止するようにセットされているが、換気扇が作動する際には夜間であつてもゴーという騒音を伴い、反面換気扇が停止している間は房内が酸欠状態となり、ホコリと相まつてともすれば呼吸が苦しいほどになる。

(8) 更に、保護房における配食の実態は劣悪極まりないものである。すなわち、配食孔がホコリだらけの床からわずか五センチメートル程の高さに設置されており、内側は常にホコリだらけである。大きさも縦、横及び奥行きが各一五センチメートルと小型のため、通常の食器はとても通過させることはできない。そのためか否かは不明であるが保護房の食器は使い捨てられた発泡スチロール製のカップ麵又は牛丼弁当の各あき箱、プラスチック製のカき氷のカップ等が使用されているのである。これらは多くシミがつき、破損している。これはまさに動物に餌を与えるに等しいと言わざるをえず、人間性に対する冒である。

(9) なお保護房は密室のうえ、房のドアの外側にもさらにドアが設置されているという二重の構造になつているため、流水を依頼することが困難なことはもちろん、急病など非常時に収容されている者が看守を呼んでも声が房外に届かないことが予想され収容されている被告人の生命、身体の安全について極めて危険性の高いものといえる。

(10) 以上のような実態を見ると、保護房への収容は、保護の美名の下に行われている肉体的、精神的拷問にほかならないことが明白であるから、それ自体憲法三六条に違反する。

(11) そのうえ、保護房は、より根本的には精神障害者に対する差別意識と偏見に基づき設置運営されているところにその問題性がある。精神障害者に対する社会的差別が刑務所内でも行われているのである。すなわち、精神障害者を恒常的に収容する施設として保護房は差別的に用いられている。このような保護房への収容は、それ自体憲法第一四条にも違反する。

(三) (本件保護房収容期間中の行為の違法性)

(1) 職員は、本件保護房収容期間中に、原告が弁護士に対する連絡の要求をしたにもかかわらず、これに応じなかつたもので、右は、保護房収容という不当拘禁に対する正当な防禦権の侵害であるうえ、刑事被告人である原告の刑事裁判における弁護権及び防禦権の侵害であるから、違法である。

(2) 職員は、同収容期間中に原告から刑事裁判に用いる意見陳述書作成用具を入れてほしい旨の要求があつたにもかかわらず、これに応じなかつたもので、右は、刑事被告人としての原告の刑事裁判における防禦権の侵害であるから、違法である。

(3) 職員は、同収容期間中に原告の兄から原告との面会を求められた際、右兄に対し、原告が保護房に収容されている事実を隠蔽したまま、「原告は現在興奮しているから面会できない。」旨の虚偽の事実を申し向けて本件面会拒否をしたものであるから、違法である。

4  (本件第一回懲罰処分及び同懲罰期間中の行為の違法性)

(一) (本件第一回懲罰処分の違法性)

(1) 本件第一回懲罰の処分理由は、原告が昭和五七年八月四日に看守に対する抗弁をし、もつて、遵守事項に違反したというにある。

しかしながら、右処分理由に該当する事実はない。原告が同日看守との間でした会話内容等は、前記3(二)(1)のとおりである。すなわち、原告は、面会連行のために原告の居房に来た同看守が、それまでに公判廷への連行や差入物の手渡し等をして原告の氏名を知悉していたにもかかわらず、原告に対する再三再四の氏名自陳を強要して不必要かつ恣意的な指示命令への服従を強制した際、同看守に対し、氏名を自陳したうえ、いえがらせをやめるように要求したに過ぎない。

(2) 仮に、原告の同看守に対する右要求が抗弁として遵守事項に違反するとしても、そもそも、遵守事項それ自体が合理性を欠く不必要なものである。すなわち、原告は、無罪が法的に推定されている訴訟の一方当事者であり、ただ、出廷確保及び罪証隠滅防止の目的で勾留されているのであるから、右目的に障害が生じるような事由がない限り、勾留されていない在宅被告人と差別して取り扱われてはならない。それゆえ、支所が、原告に対し、日常生活の隅々にまで及ぶ規律又は規則を設け、監視体制を敷くことは許されない。

(3) 在監者に対する懲罰は、精神的肉体的拘束の強化というその本質的意味において刑罰と何ら異らない。従つて、同懲罰処分手続においては、司法的手続のコロラリーとして、対審的構造、告知聴聞の機会付与及び弁護権の保障が必要である。これは、憲法三一条の規定するところである。

しかるに、同懲罰処分手続には、右手続が全く欠落しており、とりわけ、本件第一回懲罰処分にあつては、原告に告知聴聞の機会が付与されなかつた。

(4) 以上のとおり、本件第一回懲罰処分は、その理由がないうえ、手続的瑕疵もあるから、違法である。

(二) (本件第一回懲罰期間中の行為の違法性)

職員は、本件第一回懲罰期間中、原告に戸外運動及び入浴をさせなかつたが、入浴及び戸外運動は、日常生活とりわけ夏期の日常生活を健全に営ませるため必要不可欠なものであるうえ、これらの禁止により原告の健康を侵害したものであから、違法である。

5  (本件第二回懲罰処分の違法性)

(一) 本件第二回懲罰の処分理由は、原告の本件第一回懲罰期間中の拒食及び点検拒否並びに昭和五七年九月二〇日の取調べのための連行の拒否にある。

しかしながら、原告は、違法な本件第一回懲罰処分に対する正当な抗議として同懲罰期間中に右拒食及び点検拒否をしたものである。また、拒食は、拘禁された在監者のなしうる唯一の自己の生命を賭した抗議方法であるから、これに対して懲罰という不利益を課すことは、在監者から一切の人間的な意思表示の方法を奪うことにほかならず、人間性に対する冒である。更に、原告は、黙秘権を有し、いかなる供述の強制も受けない自由を有するから、前記取調べのための連行を拒否したものである。

(二) 在監者に対する懲罰処分手続においては、対審的構造、告知聴聞の機会付与及び弁護権の保障が必要であることは、前記4(一)(3)で述べたとおりである。

しかるに、本件第二回懲罰処分にあつては、原告が同懲罰処分についての懲罰審査会開催以前である昭和五七年九月二一日に、同審査会に対し、同審査会の席上に弁護士を同席させること並びに自己の意見陳述の機会及び防禦権を十分保障することを要求していたが、職員は、右要求に応じなかつた。

(三) 以上のとおり、本件第二回懲罰処分は、その理由が違法なものであるうえ、手続的瑚疵もあるから、違法である。

6  (本件第三回懲罰処分の違法性)

(一) 本件第三回懲罰の処分理由は、原告の本件第二回懲罰処分言渡しのための連行の拒否及び同懲罰期間中の拒食にある。

しかしながら、本件第二回懲罰処分は前記5のとおり違法なものであるうえ、懲罰処分言渡しのための連行は懲罰を背景に強制されるべきではないから、原告が同言渡しのための連行を拒否したことをもつて、懲罰処分の理由とはなしえないものである。また、拒食を懲罰処分の理由となしえないものであることは、前記5(一)で述べたとおりである。

(二) 在監者に対する懲罰処分手続においては、対審的構造、告知聴聞の機会付与及び弁護権の保障が必要であることは、前記4(一)(3)で述べたとおりである。

しかるに、本件第三回懲罰処分にあつては、原告が同懲罰処分理由に関する取調べ開始と同時に、職員に対し、懲罰審査対象事実を明らかにすること並びに同審査会において弁護権を保障すべきこと及び自己の意見陳述の機会を十分保障すべきことを要求していたが、職員は、右要求に応じなかつた。

(三) 以上のとおり、本件第三回懲罰処分は、その理由が違法なものであるうえ、手続的瑕疵もあるから、違法である。

7  (損害)

(一) 原告は、職員の違法行為により、精神的、肉体的苦痛を被つたが、これを慰謝するには、(一)本件保護房収容及び同収容期間中の行為につき三〇〇万円、(二)本件第一回懲罰処分及び同懲罰期間中の行為につき一〇〇万円、(三)本件第二及び第三回各懲罰処分につき各五〇万円をもつてするのが相当である。

(二) そして、原告は、本訴提起に際し、原告代理人に対し、着手金として五〇万円を支払い、成功報酬として五〇万円を支払うことを約した。

8  (結語)

よつて、原告は、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、慰謝料として、前項(一)(1)の内金二〇〇万円、同(2)の一〇〇万円、同(3)の一〇〇万円合計四〇〇万円、弁護士費用として、前項(二)の一〇〇万円総合計五〇〇万円並びにこれに対する違法行為の日の後である昭和五七年一〇月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1項の事実は認める。

2(一)  同2項(一)第一文の事実は認め、同第二文の事実は否認し、同第三文のうち、原告の兄が原告との面会を求めた日が昭和五七年八月一二日であることは否認し、その余の同第三文の事実は認める。なお、原告の兄が原告との面会を求めた日は、同月一〇日である。

(二)  同(二)の事実は認める。ただし、本件第一回懲罰の処分理由は、原告主張の抗弁事犯のみだけではなく、昭和五七年八月九日の連行拒否事犯も含まれている。

(三)  同(三)のうち、本件第二回懲罰期間終了日が昭和五七年九月二九日であることは否認し、その余の事実は認める。なお、同終了日は、同月二八日である。

(四)  同(四)のうち、本件第三回懲罰期間終了日が昭和五七年一〇月一五日であることは否認し、その余の事実は認める。なお、同終了日は、同月一四日である。

3(一)  同3項(一)(1)のうち、昭和五七年八月四日看守が原告に対し「名前は」と訊ねたことは認め、その余の事実は否認する。同(2)のうち、面会終了後原告が看守らによつて取調室に連行されたことは認め、その余の事実は否認する。同(3)のうち、同月九日連行係職員が原告の居房において取調べがあるので保安課へ出頭するよう指示したことは認め、その余の事実は不知。同(4)のうち、保安課本部区長が原告の居房において部下職員らとともに原告を保護房へ連行し、収容したことは認め、その余の事実は否認する。同(5)の主張は争う。

(二)  同(二)の各事実中、(1)のうち房の壁はリノリュームが全面に張られていること、同(4)のうち天井には蛍光灯及びテレビカメラが設置されていること、同(6)のうち房内に便器と洗面所があること、同(7)のうち房内に換気扇が設置されており、盛夏時には一時間につき五〇分作動し一〇分停止するようセットされていること及び同(8)のうち配食孔の大きさが原告主張のとおりであることはいずれも認め、同(7)及び(8)のうちのその余の事実並びに同(2)、(5)及び(9)の事実はいずれも否認し、同(10)及び(11)の主張は争う。

(三)  同(三)の事実は否認する。

4(一)  同4項(一)(1)のうち、本件第一回懲罰の処分理由の一つが、原告が昭和五七年八月四日に看守に対する抗弁をし、もつて、遵守事項に違反したことであることは認め、その余の事実は否認する。同(2)ないし(4)の主張は争う。

(二)  同(二)のうち、職員が本件第一回懲罰期間中原告に戸外運動及び入浴をさせなかつたことは認め、その余の主張は争う。

5(一)  同5項(一)のうち、本件第二回懲罰の処分理由が原告の本件第一回懲罰期間中の拒食及び点検拒否並びに昭和五七年九月二〇日の取調べのための連行の拒否にあること、原告が右拒食及び点検拒否並びに取調べのための連行の拒否をしたことは認め、その余の主張は争う。

(二)  同(二)のうち、原告が昭和五七年九月二二日(二一日ではない。)に、懲罰審査会に対し、同審査会の席上に弁護士を同席させることを要求したことは認め、その余の事実は否認する。

(三)  同(三)の主張は争う。

6(一)  同6項(一)のうち、本件第三回懲罰の処分理由が原告の本件第二回懲罰処分言渡しのための連行の拒否及び同懲罰期間中の拒食にあることは認め、その余の主張は争う。

(二)  同(二)のうち、原告が職員に対し懲罰審査会において弁護権を保障すべきこと及び自己の意見陳述の機会を十分保障すべきことを要求したことは認め、その余の主張は争う。

7  同7及び8項の主張は争う。

三  被告の主張

1  (本件保護房収容及び本件各懲罰処分の経緯)

(一) (本件保護房収容)

(1) 昭和五七年八月四日午前一一時七分ころ、原告の居房廊下側窓際において、看守である連行係職員が原告に対し、面会連行のため、「名前は」と質問したところ、原告の声が小さくて同職員にはよく聞きとれなかつたので、再度同職員が「名前は」と質問すると、原告は「なに威張つているんだ、宮井だ」と言つて、同職員の氏名確認に対して反抗し、遵守事項36に違反した(以下「1事犯」という。)。

(2) 右1事犯があつたけれども、同職員は原告を一応面会させ、同日午前一一時二七分ころ、面会を終了した原告を一階取調室に連行し、第二処遇係長が1事犯につき、監獄法(以下「法」という。)五九条、同法施行規則(以下「規則」という。)一五八条に基づき、原告に対し、取調べに付する旨を告知した

(3) 同月九日午後一時二五分ころ、1事犯につき、取調べのため、原告を右取調室に連行すべく、連行係職員が前記居房に赴き、「取調べるから出なさい」と指示したところ、原告は「付き合いきれない。用事があるならそつちがこつちへ来い」といつて正当な理由もなく連行を拒否し、遷守事項39に違反した(以下「2事犯」という。)。

(4) 更に同日午後一時三〇分ころ看守部長が前記居房に赴き、原告に対し「調べがあるから保安課まで来なさい」と指示したが、原告は「嫌だ、拒否する」と答えた。そこで同看守部長は「拒否する理由は何だ」などと問いかえすと、原告は「強引に連れて行くなら暴れるぞ」などといつて連行を拒否した(以下「3事犯」という。)。

(5) そこで、右の報告を受けた本部区長は、同日午後一時三七分ころ第三処遇係長ほか二名の職員を指揮し、前記居房に赴き、原告に対して取調べのための出房を促したが、原告があくまでもこれを拒否したため、右職員らに対し、原告を連行するよう指揮した。

指揮を受けた職員らが原告を連行するため居房に入つたところ、原告は、たまたま右手に握つていたボールペンを逆手に持ちかえ、足で小机を蹴つて立ち上がつた(以下「4事犯」という。)。このため、暴行の危険を感じた職員らは、そのボールペンを払い、原告の両腕をそれぞれ押えた。

(6) その後も原告が居房外に出ようとしないので、本部区長も原告の左腕を引いて原告を居房外に出したが、原告は、激しく体をゆさぶり、反り身になつて抵抗し、「何するんだ、おまえら」などと大声を発し、蹴り付ける態勢を示して暴れた。大声を聞いて他の職員二名がかけつけて制圧に加わり、左右の足をすくい取つてかかえ上げたが、原告は、なおも「この野郎」などと大声でわめきたて、足を屈伸させ、あるいは体を左右上下に波うたせて暴れた。

(7) 原告が右のように大声を発し続け、暴れるなどの興奮状態にあつたことから、暴行のおそれが認められ、このままでは取調室への連行及び一般居房への収容は不適当であると判断されたため、支所長は、同日午後一時四五分、原告を保護房に収容した。

原告は、保護房収容直後は、房扉を足蹴りし、大声で怒鳴るなど極度の興奮状態を示していた。

(8) 原告は、保護房収容後の夕食から八食にわたり絶食を続け、更にはすぐ怒鳴り散らしたり房扉を蹴るなどの粗暴な態度を示していたが、同月一二日には、粗暴さを表わすことが少なくなつてきたことから、支所長は、なお、巡視する職員を凝視したり、表情の硬さ及び反発する言動があつたものの、暴行のおそれが薄らいだものと認め、同日、原告の保護房収容を解除し、1事犯とともに2ないし4事犯についても規律違反行為として取調べに付した。

なお、右保護房収容期間中、原告から弁護士への連絡のための発信及び訴訟に関する申出等は一切なかつた。

(二) (本件第一回懲罰処分の経緯)

(1) 昭和五七年八月一八日、看守長らが1ないし4事犯について取調室において原告から事情を聴取したが、原告はすべて黙秘し、更に供述調書への署名・指印を拒否した。

(2) 同月一九日、支所長、保安課長、指導課長、保安課長補佐及び保安課係長をもつて構成する懲罰審査会は、1ないし4事犯について懲罰を科するか否かを審査し、同日、支所長は、右審査会の意見を聴いたうえ、法五九条、六〇条により原告を一五日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する旨の本件第一回懲罰処分を決定し、同月二〇日午後三時ころ、保安課長をして、原告に右処分の言渡しをさせ、これを即日執行した。

(3) なお、支所長は、右審査会を開くに際し、原告に弁解の機会を与えるため、原告に対し右審査会への出席を求めたところ、原告はこれを拒否した。そこで、更に、弁解書を提出するよう指導したが、その提出はなされなかつた。

(三) (本件第二回懲罰処分の経緯)

(1) 本件第一回懲罰処分は前記のとおり八月二〇日に執行され、九月三日に終了したところ、その間原告は、右懲罰処分は違法、不当であるから、これに対決すると称して右執行が開始された八月二〇日の夕食から同月三一日の昼食までの計三三食を拒食し、また同じく八月二〇日の夕点検から九月四日の朝点検までの間の人員点検をすべて拒否した。

拒食については遵守事項6、点検拒否については遵守事項36にそれぞれ違反するものである(以下「5事犯」という。)。

(2) 右5事犯について原告から事情聴取するため、九月二〇日午後一時三五分ころ職員が右居房に赴き、原告に対して「調べがあるから出なさい」と指示したところ、原告は「断わる」と答えて連行を拒否した。右報告を受けた本部区長は、午後一時四〇分ころ五名の職員を指揮して前記居房に赴き、原告に対し「出なさい」と出房を指示したが、原告はこれを無視し、居房に座り込んで連行を拒否した(以下「6事犯」という。)。このため、本部区長は、右職員らに原告を連行するように指揮した。

そして、原告を取調室に連行後、本部区長が原告に対し前記6事犯について規律違反行為として5事犯と併せて取り調べる旨を告知し、事情聴取を行つたが、その間、原告は黙秘を続け、更に供述調書への署名・指印を拒否した。

(3) 5及び6事犯について、同月二一日懲罰審査会が開かれ、原告に対して懲罰を科するか否かが審査された。翌二二日、支所長は、右審査会の意見を聴いたうえ、法五九条、六〇条に基づき、原告に対して七日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する旨の本件第二回懲罰処分を決定した。

なお、支所長は、本件第一回懲罰処分のときと同様に右審査会を開くに際し、原告に対し、弁解の機会を与えるため、右審査会への出席を求めたところ原告はこれを拒否した。そこで、更に、弁解書を提出するよう指示したが、その提出はなされなかつた。

(4) 右同日午後三時一五分ころ、右懲罰処分の言渡しのため連行係職員が原告の居房に赴き「懲罰の言渡しがあるので出て来なさい」と指示したところ、原告は「行く必要がない」と答えてこれを拒否したことから、同日午後三時二〇分ころ右報告を受けた看守長は、職員四名を指揮して前記居房に赴き原告に対し、出房を指示したものの、原告はあくまでもこれを拒否し、遵守事項39に違反した(以下「7事犯」という。)。

(5) 原告は、職員らの再三にわたる出房の指示に従わなかつたため、連行すべく、職員二名が居房に入つたところ、原告は「弁護人の立会について返事をしてからにしろよ」などと言つて居房内に座り込み立とうとしないため、やむなく職員らにおいて、原告の両腕をそれぞれが軽く抱えて保安課会議室まで強制的に連行した。そこで保安課長が原告に対して本件第二回懲罰処分を言渡し、即日これが執行された。その言渡しの際、同課長は、原告に対し、懲罰審査会に弁護人を出席させる制度になつていない旨を告知した。

(四) (本件第三回懲罰処分の経緯)

(1) 原告は、本件第二回懲罰期間中である同月二二日の夕食から同懲罰期間終了日である同月二八日の夕食までの計一九食をハンストと称して拒食し、遵守事項6に違反した(以下「8事犯」という。)。

(2) 一〇月七日午前一〇時二〇分ころ、看守長は7及び8事犯について取調べのため原告を取調室に連行して原告から事情を聴取した。しかし、その間、原告は黙秘を続け、更に供述調書への署名・指印を拒否した。

(3) 7及び8事犯について、右同日、懲罰審査会が開かれ、原告に対し懲罰を科するか否かが審査された。翌八日、支所長は、右審査会の意見を聴いたうえ、法五九条、六〇条に基づき七日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する旨の本件第三回懲罰処分を決定し、同日午後三時ころ、保安課長が原告に対し右処分の言渡しをなし、これが即日執行された。

なお、支所長は、本件第一回及び第二回懲罰処分のときと全く同じように原告に弁解の機会を与えるため右審査会に出席するよう求めたところ、原告はこれを拒否した。そこで更に弁解書を提出するよう指導したが、その提出はなされなかつた。

2  (本件保護房収容及び同収容期間中の行為の適法性)

(一) (本件保護房収容の適法性)

本件保護房収容に至る経過は、前記1(一)のとおりである。

すなわち、原告が、職員らの取調べのための連行に対して激しく体を揺さぶるなどして抵抗し、「何するんだ、おめえら。」などと大声を発し続け、興奮状態で暴行のおそれがあり、このままでは原告を普通房に収容することは、原告の鎮静及び身体生命の保護並びに所内の秩序の維持上、不適当と認められたため執られた措置である。

したがつて、原告の保護房収容は、原告の鎮静及び保護並びに所内の秩序の維持のために、規則四七条に基づき、かつ、必要最小限度になされたものであるから、何らの違法、不当なものではない。

なお、原告の保護房収容の発端となつた連行係職員の氏名確認行為については、横浜刑務所保安服務規程に「被収容者を連行するときには、身柄移動の理由、移動先、人員並びに人違いでないかを確認すること」と規定されており(九六条一号)、また房には在監者の称呼番号だけが表示され、その氏名は表示されていないところから、在監者を連行するきには、在監者の氏名確認をすることが義務づけられているのである。そこで、前記1(一)(1)で述べたとおり、連行係職員による氏名確認行為に対して、原告が小声で返答したので聞き取れなかつたため、再度、同職員が氏名を確認したものである。

また、同職員が、原告を公判廷に連行したことがあり、仮に、原告を知つていたとしても、多数の被拘禁者が収容されている支所においては、これらの者の出廷、面会等の業務を迅速かつ正確に遂行し、事柄の性質上、万が一にも人違いをすることを避けるため、前記服務規定を遵守し、その都度、被収容者の氏名を確認する必要があるのである。

したがつて、連行係職員の氏名確認行為は、正当な職務行為であり、責務でもあるから、原告の主張が失当であることは明白である。

更に原告が保護房に収容されていた期間は、昭和五七年八月九日から同年八月一二日までのわずか四日間であつて、その間、運動及び入浴が禁止されていたからといつて、これにより原告が体力・健康を著しく害したなどということは到底あり得ないことである。なお、横浜拘置支所では、保護房拘禁中の者には、運動入浴を原則として実施せず、拘禁期間が長期間にわたり、かつ、医師の意見により健康管理上特に必要と認められる場合には個別に実施することとされている。

(二) (保護房の設備、構造及び設置運営とその適法性)

規則四七条は「在監者ニシテ戒護ノ為メ隔離ノ必要アルモノハ之ヲ独居拘禁に付ス可シ」と定めているところであるが、右にいう「必要アル」とは、在監者の鎮静及び身体生命の保護並びに所内秩序維持のため一般房に拘禁することが不適当な場合をいい、そのために使用する独居房が保護房である。

そして、保護房が精神障害者を恒常的に収容する施設として使用されているなどという事実は全くない。

保護房は、右場合等において使用するために設置されているものであるから、右目的を達成するために必要な設備、構造を有するものでなければならない。

そこで、支所における保護房は、右目的を達成するため、次のように合理的に設計されている。

(1) 保護房は、自殺及び自傷事故等を未然に防止するため自殺、自傷の用に供されやすい部分のないようにしなければならないが、他方その居住環境を低下させない配慮も必要であるので、その双方の要請を考慮しつつ、一般房の設備、構造に改造を施したものである。すなわち、窓の開放部(窓面積と同様の面積)にガラスブロックを壁面に合わせて設置し、縊首用のひも等が掛けられないようにして縊首を防止し、また、房内の突起物をなくし、水道蛇口は壁に埋め込み、さらに、壁に身体を打ちつける等して自傷することを防止するため、壁面及び床面をリノリューム張りとしている。

(2) 採光については、右に述べたとおり、窓面積同様の面積部にガラスブロックが埋め込まれており、日光が差し込むようになつている。また昼間は、二〇ワットの蛍光灯を常時点灯しており、夜間(午後九時以降)は六ワットのそれに減灯しているがこれは一般房と同様であり、採光については一般房とほとんど差異はない。

(3) 支所では空房時に定期的に房内の掃除を行つているほか、被収容者退房後は必ず掃除を行つている。また、房内に配置してある物品としては、昼間は、マット(フェルト製)、夜間は、布団のみであることから、原告が主張するようなホコリの堆積や毛髪の散乱する状況は到底あり得ないものである。

万一、保護房収容中に、汚損した場合には、職員が直ちに清掃を行つている。

(4) 保護房収容は、収容者の鎮静及び身体、生命の保護並びに所内秩序維持を目的としているため、一般房においては職員の巡回回数がおおむね十分ないし十五分に一回であるところ、保護房については、これ以上の巡回回数としている。更に、監視用テレビカメラによる監視が二四時間体制で行われており、監視テレビカメラに併設されている高感度マイクにより新聞紙を開く音でさえも採音することができ、報知ブザーが鳴る構造となつていることから、被収容者の生命、身体について危険が生じたとしても、すぐこれを察知しうるものである。なお、保護房のドアは二重構造ではない。

(5) 保護房には、換気扇(盛夏期には一時間につき((以下同じ))、五〇分間、冬期には一五分ないし二〇分間、春期及び秋期には三〇分間、作動)のほか換気口(二〇センチメートル×二〇・五センチメートル)が設備されているのであるから、万一、換気扇が作動しない場合でも房内が酸欠状態になるなどということはない。また気温による室温確保のため外気温を考慮しつつ、換気扇を作動させることとしている。

(6) 保護房の配食の実態については、(3)で述べたとおり、保護房を適宜清掃して常時清潔にしているのであつて、配食孔がほこりだらけであるなどという事実は全くない。また、配食孔の大きさについては原告主張のとおりであるが、通常の食器を容易に通過させることができるものである。使用食器については、保護房の前記使用目的を踏まえて、食器を使用した自傷事故等を未然に防止するために発泡スチロール製等の食器を用いることもあるが、その食器の衛生については、一般の食器と同様に清潔保持を行つているのである。

(7) 以上のとおりであるから、保護房への収容が肉体的・精神的拷問にほかならないとの原告の主張は、事実に反する。

(三) (本件保護房収容期間中の行為の適法性)

(1) 原告は、本件保護房収容期間中に、職員に対し、原告から弁護士への連絡の要求及び刑事裁判に用いる意見陳述書作成用具を入れてほしい旨の要求があつた旨主張するが、右事実は、前記1(一)(8)のとおりなかつたものであるから、これらの事実があつたことを前提とする主張は失当である。

(2) 原告は、本件面会拒否が違法である旨主張する。

ところで、未決勾留によつて拘禁された者が、その拘禁目的上、本来、外部の者と隔離して身体の自由を拘束される関係から、外部の者との接見につき所要の制限を受けることは当然であり、当該監獄における接見需要の多寡、監獄の人的、物的戒護能力及び当該接見の目的、緊要性その他諸般の事情の下において、接見の許容が拘禁目的を阻害し、監獄の正常な管理運営に支障をきたすおそれがある場合には、これを制限することもやむを得ない。そして、具体的場合における接見制限の有無及び態様については、監獄という特殊な集団的拘禁施設において、所内の事情に通暁し、かつ、専門的技術的知識と経験を有する監獄の長の判断にある程度の裁量を認めざるを得ず、法四五条一項は、「在監者ニ接見センコトヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」と定めているが、この規定は、いかなる場合にも一般面会人と在監者との接見を許さなければならないとの趣旨に解すべきではなく、法四五条二項、五〇条並びに規則一二〇条ないし一二八条を通覧すれば、監獄法令は、一般面会人と在監者との接見については、監獄の管理運営上支障のない限度でその接見を保障しているに過ぎないものであつて、その許否につき所長に裁量権を認めている。

これを本件についてみるに、右面会は、原告の兄が安否伺いの目的で申し込んだものであり、また、前記1(一)(1)ないし(8)において述べたように、当時原告は興奮して面会できるような状態ではなかつたので、支所長から委任を受けた保安課長は、面会を許可することは相当でないと判断し、右面会申し入れを不許可にしたものであるから、その取扱いには何ら違法、不当な点はない。

3  (本件各懲罰処分の適法性)

(一) 原告は、①本件各懲罰の処分理由となる対象事実がなく、②仮に、その事実があつたとしても、原告は無罪が法的に推定されている被告人であり、ただ出廷確保・罪証隠滅防止目的で勾留されているのであるから、右目的に障害が生じるような事由がない限り勾留されていない在宅被告人と差別して取り扱われてはならないのであるから、遵守事項は合理性を欠き、③また、その処分手続において司法的手続のコロラリーとして要求される対審的構造、告知聴聞の機会付与、弁護権の保障は全く欠落しているから、憲法三一条に違反する旨主張する。①については、原告には、遵守事項6、同36及び同39等に違反した事実があることは、前記1で述べたとおりであるから、②及び③について反論する。

(二) (②について)

(1) 監獄が、受刑者の矯正、被告人等の勾留、被疑者の留置等を目的として多数の受刑者等を拘禁し、これらの者を集団的に管理しながらその拘禁目的の達成を実現すべく設置されているところから、在監者が安全で平穏な秩序ある共同生活を営み、監獄の正常な管理運営ができるように規律が保持されなければならないのである。

ところで、およそ集団の生活には、何らかの「生活規範あるいは約束ごと」が必要であることは自明の理であり、このことは、自己の意に反して身柄を拘束されている在監者を集団として管理している監獄においては、特に重視されるべきことであり、右生活規範あるいは約束ごとのうち、監獄の規律を害する行為を特に遵守事項として掲げ、これに違反した者に対して懲罰を科するということは正に合理的なものである。憲法三四条は、未決の被疑者・被告人についても、正当の理由のある限り、その身体を拘禁することを予定しているところ、その処遇については何ら規定するものでないから、立法に委ねられているということができる。そこで、法五九条、六〇条、規則一九条一項、二二条二項は、未決、既決を問わず規律違反をした在監者に対しては、懲罰に処する旨定めているのである。

(2) そして、規律違反者に対して反省を促すために、いかなる内容の懲罰を科し、又は併科して執行するかは、監獄拘禁の特殊性に照らし、支所の秩序維持には、適時適切な措置が要請されるとともに、極めて専門的、技術的知識が必要とされることから、支所長に広範な裁量権が与えられているところ、支所においては、右「規律」の具体的内容として、逃走、自殺企図、拒食、抗弁及び連行等の拒否などの行為を被拘禁者の遵守すべき事項として個別的、具体的に定め、これを入所時に入監者に告知するとともに、「未決収容者のしおり」に明示し、右しおりを居房内に備え付け(規則一九条一項、二二条二項)、在監者に懲罰の対象となる規律違反行為の基準を周知させているのである。

(3) したがつて、前記のような遵守事項違反のあつた原告に対して付された本件各懲罰処分は、所内の秩序維持及び原告の反省を促すためのやむを得ざる最低限の処分であり、原告が未決の被告人であるからといつて何ら違法、不当なものではない。

(三) (③について)

懲罰の性質は、右に述べたとおりであるが、支所長が、対審的構造に基づかないで自ら懲罰事犯を取り上げ懲罰を科すことは、右懲罰の性質から当然のことであるし、また、弁護人選任権は、本来、刑事手続に関して保障されたものであるところ、右懲罰は秩序罰であつて、刑罰とは本質的にその性格を異にするものであるから、憲法三七条が懲罰対象者に対してまで、弁護人選任権を与えることを要求していると解することは到底できない。

また、本件においては、前記のとおり「未決収容者のしおり」を房内に備えつけて懲罰の対象となる規律違反行為の基準を明らかにし、規律違反と目される行為が発覚すると本人から事情を聴取し、また懲罰審査会には懲罰対象者を出席させて弁解の機会を与えており、原告に対しても右同様の取扱いがなされたが、原告は、いずれも、取調べ及び懲罰審査会への出頭を拒否し、かつ、弁解の機会さえも放棄しているのである。

したがつて、原告の主張は失当というべきである。

4  (本件第一回懲罰期間中の行為の適法性)

原告は、本件第一回懲罰期間中、戸外運動及び入浴を禁止され、健康を侵害された旨主張する。

軽屏禁とは「受罰者ヲ罰室内ニ昼夜屏居セシメ」(法六〇条二項)る処分であり、それは厳格な隔離によつて謹慎させ精神的孤独の痛苦により改悛を促すことを目的とするものであるから、その目的を全うするため筆記及び発受信の禁止並びに罰室外に出る行動を伴う戸外運動、入浴、接見の禁止等が当然に随伴しているものであり、一方、文書図画閲読禁止は、物を読む自由を奪い無りように苦しむという消極的痛苦を与える処分であつて、公判資料を含む一切の文書、図画の閲読を禁じることをその内容とし、これが軽屏禁に併科される場合には、軽屏禁をより効果的なものにすることが期待されているのである。

したがつて、軽屏禁の目的からみて、懲罰処分が運動及び入浴の禁止の効果をその内容とすることは当然に許容されるべきであり、何ら違憲、違法であるとはいえないのである。

なお、支所では軽屏禁の執行に当たつては、受罰者の健康及び衛生を保持するために運動及び入浴を無制限に禁止しているのではなく、懲罰執行前には入浴させ、その後週二回の入浴日には被処分者の居房に湯を配り、拭身させている。更に、懲罰執行から一〇日を経過した直近の入浴日には入浴を、運動についても、一〇日を経過した直近の運動日には運動をそれぞれ実施しているところ、原告の場合には、右居房への配湯及び拭身をさせたものの、運動及び入浴については、原告が昭和五七年八月二〇日の夕食から同月三一日の昼食まで拒食を継続していたので健康上の理由から右運動及び入浴をさせなかつたものである。

したがつて、本件第一回懲罰処分の執行にあたつても原告の健康管理には十分な配慮がなされていたものというべきである。

以上のとおりであるから原告の主張はいずれも理由がなく失当である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1項の事実(当事者等)は当事者間に争いがない。

二原告は、本件保護房収容が違法、違憲である旨主張するので、判断する。

1  法は、監獄を四種に区分し、その一つとして刑事被告人等を拘禁する所を拘置監とし(一条)、「在監者ハ心身ノ状況ニ因リ不適当ト認ムルモノヲ除ク外之ヲ独居拘禁ニ付スルコトヲ得」(一五条)と定め、これを承けて、規則は、「刑事被告人ハ成ル可ク之ヲ独居拘禁ニ付ス可シ」(二四条)と定めるほか「在監者ニシテ戒護ノ為メ隔離ノ必要アルモノハ之ヲ独居拘禁ニ付ス可シ」(四七条)と定め、更に、「在監者逃走、暴行若シクハ自殺ノ虞アルトキ又ハ監外ニ在ルトキハ戒具を使用スルコトヲ得。戒具ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」(一九条)との定めに基づいて規則は、戒具の種類を鎮静衣、防声具、手錠及び捕縄の四種として(四八条)、「鎮静衣ハ暴行又ハ自殺ノ虞アル在監者、防声具ハ制止ヲ肯ンセスシテ大声ヲ発スル在監者、手錠及捕縄ハ暴行、逃走若クハ自殺ノ虞アル在監者又ハ護送中ノ在監者ニシテ必要アリト認ムルモノニ限り之ヲ使用スルコトヲ得」(五〇条一項)と定めている。

そして、右各規定に基づいて監獄においては、独居拘禁のための独居房として、一般房のほか、被拘禁者の鎮静及び保護にあてるために設けられた特別の設備及び講造を有する保護房とがあり、右戒具の使用に代えて、又はこれと併せて保護房が使用されていることは顕著な事実である。

2  原告が昭和五七年八月九日から同月一二日まで保護房に収容されたこと(本件保護房収容)は当事者間に争いないところ、原告は、保護房の設備及び構造から、保護房に収容すること自体が肉体的、精神的拷問にほかならないから、憲法三六条に違反するか、又は、精神障害者を恒常的に収容する施設として保護房は差別的に用いられているから、かかる保護房への収容自体が憲法一四条に違反する旨主張するので、検討する。

(一)  保護房の壁はリノリュームが全面に張られていること、天井には、螢光灯及びテレビカメラが設置されていること、房内に便器と洗面所があること、房内に換気扇が設置されており、盛夏時には一時間につき五〇分作動し一〇分停止するようセットされていること、配食孔の大きさは縦、横及び奥行が一五センチメートルであることは、当事者間に争いがない。

(二)  前記事実に加え、〈証拠〉によれば、次のとおりの事実が認められる。

支所の保護房は、間口一・七八メートル、奥行き二・九八メートル、高さ二・四メートルの独居房であり、被収容者の自殺及び自傷事故等を防止するため、壁面及び床面にリノリュームが張られ、水道蛇口を壁に埋め込む等して突起物をなくし、採光のための窓(一・〇二メートル×〇・八五メートル)にはガラスブロックをはめこんで縊首用のひも等が掛けられないように造られていること、

支所においては、保護房の被収容者の自殺及び自傷事故等の防止並びに被収容者の鎮静状態等の把握のため、職員による巡回視察が概ね昼間において一五分に一回、夜間において三〇分に一回の割合でなされることとなつており、また、監視用テレビカメラにより二四時間体制で被収容者の行動を監視されるようになつていること、

保護房の採光及び照明は、前記ガラスブロックがはめこまれた窓からの採光のほか、一般房同様に、昼間は二〇ワットの螢光灯、夜間には六ワットの螢光灯による照明があつて、保護房内の照度は、一般房内の照度と比較して大差がないこと、

保護房の換気は、同房に設置された換気扇を作動させ換気口(二〇センチメートル×二〇・五センチメートル)から吸気して行われるが、盛夏時には一時間につき五〇分換気扇を作動させて一〇分間停止させることとしており、同房内の盛夏時の気温及び湿度は、冷房設備がないために相当の暑さではあるが、一般房及び指導課事務室のそれと比較して大差がないこと、

保護房の清掃は、概ね一週間に二回の割合でなされているほか、同房の被収容者が退房した直後にもなされ、更に、収容中であつても汚損の著しいときにはその都度なされることとなつており、原告が収容された保護房については、本件保護房収容の前である昭和五七年八月四日及び同収容解除当日の同月一二日など同月中に九回の清掃がなされていること、

保護房内における用水及び用便は、同房の奥両すみに床を掘るようにして埋め込まれている洗面所及び便器によつてこれをなすことができるが、前記のとおり自殺及び自傷事故等を防止するため水道蛇口が壁に埋め込まれているため、流水操作は、被収容者が頻繁に訪れる巡回視察の職員に依頼してなされることとなるが、原告についも、本件保護房収容期間中、右のようにして用水及び用便並びに流水操作がなされたこと、

保護房の配食は、縦、横及び奥行きが各一五センチメートルの配食孔を通じてなされるが、右配食孔は通常の食器を通過させるのに十分な大きさであり、使用食器も、通常、一般房在監者と同様のものが用いられるが、被収容者が興奮のため自傷又は暴行等のおそれの顕著である場合においては、予め買い備え付けられた発泡スチロール製食器や紙スプーン等が用いられることとなつていること、原告についても興奮が激しかつたため、使用食器として、発泡スチロール製食器、紙スプーン及びプラスチック製簡易コップが用いられたこと

以上の事実が認められ〈反証排斥略〉、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、保護房は、一般房と比較して、被収容者が興奮のうえ、自殺、自傷又は暴行の虞れのある場合あるいは大声を発するなどして舎房全体の平穏を害してその秩序維持に支障を与えるなどの虞れのある場合に、これを鎮静又は保護するための特別の設備、構造を備えた独居房であることが認められるが、これをもつて拷問のための施設であるとは認め難い。

刑事被告人が独居房に拘禁されること自体、著しい肉体的、精神的苦痛を伴うものであることは自明であるが、独居房に拘禁すること自体は憲法の予定しているところということができる(憲法三一条、三四条参照)から、刑事被告人を保護房に拘禁することをもつて憲法三六条に違反するものとはいい難い。

更に、前記認定からも、保護房が精神障害者を差別するために設けられた施設であるとはいい難いから、原告の保護房への収容が憲法一四条に違反する旨の主張は、その前提を欠き失当である。

したがつて、原告の前記主張はいずれも採用することができない。

3  原告は本件保護房収容が違法である旨主張するので、検討する。

(一)  規則によれば、在監者の戒護の措置として、隔離の必要のある場合には独居拘禁に付し(四七条)、暴行又は自殺の虞れのある場合又は職員の制止をきかないで大声を発する場合には戒具を使用する(五〇条)旨定められているところ、右の場合の暴行とは、人又は物に対する有形力の行使の総てをいい、他人のみならず自分自身を傷つけたり、舎房全体の平穏を害してその秩序維持に支障を与えるなど在監者拘禁の目的に反する結果を招来する虞れのある場合をいうものと解される。(東京高裁昭和五三年六月二二日判決、判例時報八九八巻五七頁参照)。

そうすると、在監者に自殺又は自傷の虞れ、あるいは職員等に暴行又は職員の制止に従うことなく大声若しくは騒音を発し、舎房全体の平穏を害してその秩序維持に支障を与える虞れがあつて、一般房に拘禁することが不適当な場合においては、当該在監者につき、その鎮静及び生命身体の保護並びに監獄の秩序維持のため、戒護の措置として、保護房に拘禁することが許されるものと解するのが相当である。

(二)  これを本件についてみるに、昭和五七年八月四日、看守が原告に対し「名前は」と訊ねたこと、同日、原告が面会終了後看守らによつて取調室に連行されたこと、同月九日、連行係職員が原告の居房において取調べがあるので保安課に出頭するように指示したこと、同日、保安課本部区長が原告の居房において部下職員らとともに原告を保護房へ連行し、収容したこと、原告は、以後同月一二日まで保護房に収容されたことは当事者間に争いない。

前記一及び右の事実に加え、〈証拠〉を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和四九年三月、長野県内の高校を卒業し、同年四月、東京大学法学部に入学したが、同五五年同学部を中退し、以後、アルバイトをするなどして生活していたこと、

原告は、同五七年四月ころ、神奈川大学の構内において傷害罪及び軽犯罪法違反の罪の被疑事実により逮捕され、同月七日傷害罪により、同月二八日軽犯罪法違反の罪により各起訴され、同年五月七日以後支所に刑事被告人として勾留されることになつたこと、

原告は、政治的思想的な立場からいわゆる監獄法の改正二法案に反対し、これを廃案にさせる運動に参加していたところ、支所における規律は同改正法案の先取りであつて、それに従うことは奴隷的服従であり、その違反行為に対する懲罰処分は人民又は獄中戦士に対する不当な支配若しくは弾圧であると捉え、支所内及び東京拘置所内の志を同じくする他の在監者や支所外の政治的思想的な立場を同じくする団体と常時連絡をとり合いながら、支所の規律に徹底的に抵抗して、居房内においても自己の思い通りの生活を実現することを目標とし職員の指示などにも従わず、かえつてこれに逆らい、職員が根負けをすると、これを闘争によつて勝ちとつたものとし、このような抵抗の内容、これに対する当局側の対応等を情報として、右の他の在監者らに提供し、支所の規律に抵抗する闘争を行つていたこと、

(2) 小栗看守は、昭和五六年六月一五日刑務官を拝命し、同五七年八月四日ころ、保安課で実務研修中であり、同日は、他の看守とともに面会連行の職務に従事していたこと、

同看守は、原告に対する面会申出を受けて、原告を面会室に連行するため、同日午前一一時七分ころ、原告の居房に赴いたが、原告を連行するのは始めてであつたこと、

支所の在監者の舎房は、廊下側に舎房番号が明示されているにすぎないこと、支所においても横浜刑務所の保安服務規程九六条「在監者を連行するときには身柄移動の理由、移動先、人員並びに人違いでないかを確認する」旨の定めに従つて面会その他の連行が行われていたので、小栗看守は、上司から、面会その他の連行に際しては人違いのないように在監者の氏名確認をきちんとすることを指導されていたこと、

そこで、小栗看守は、原告の居房廊下側窓際において、折から小机に向つて読書をしていた原告に対し、「名前は」と質問したこと、

原告は、これに対して、うつむいたまま小声で何か答えたが、小栗看守は、これがよく聞きとれなかつたため、原告に対し、再度、氏名を述べることを求めたところ、原告は、若い同看守をみて、「なに威張つているんだ、宮井だ」と語気鋭く申し向け、同看守から、「何だその言葉使いは」と反論されるや、「偉そうにいうな」などと言い、両者間に言い争いがあつたこと、

(3) その後、小栗看守は、原告を面会室に連行し、原告が同室で面会をしている間に、保安課事務室に赴いて相澤係長(副看守長)に事の顛末を報告したところ、同係長から、原告を保安課取調室に連行するよう指示されたので、前同日午前一一時二七分ころ、面会を了した原告を保安課取調室に連行したこと、

原告は、同室に到着した後、同室の椅子に坐つていたところ、ややしばらくして同室に現れた相澤係長から開口一番「気を付け、礼」などと号令をかけられたので、これを軍隊式の対応を強要するもので失礼な態度であるからこれに応ずる必要がないと考え、椅子に坐つたまま、同係長に対し、「そんなことより用件は何か、早く教えろ」と言い張り、椅子から立つことを求める同係長との間で、立て立たないで言い争いを続け、更に、勝手に同室から立ち去ろうとしたため、同係長及び右言い争いを聞いて駆けつけた池野保安課長補佐(舎房区長、看守長)から制止されて、同室にとどまつたこと。

相澤係長は、そこで、原告に対し、「職員の指示に対して抗弁したことにつき取調べにする」旨告知したが、原告が取調べに応ずる態度を全く示さなかつたことから、取調べを後日続行することとして原告を還房することとし、他の看守とともに原告をその居房に連行したこと、

保安課職員は、同日、原告の小栗看守に対する前記(2)の言動(以下「本件言動」という。)が遵守事項36(「法令、生活の心得又は作業実施上等の心要に基づく刑事施設の職員の職務上の指示に対し、抗弁、無視、嘲弄その他の方法でこに反する態度をとつてはならない。」)に違反する抗弁事犯であるとして、これにつき取調べを続行することとし、支所長に対し、事実経過を報告するとともに、これにつき支所長の決済を得たこと、

(4) 半田看守は、同月九日午後一時二五分ころ、上司の命を受けて原告を保安課取調室に連行するため、原告の居房に赴き、原告に対し、「取調べがあるから出なさい」と指示したところ、原告は、同看守に対し、「取調べの対象事実が全くの捏造された事実であるから、行く必要がない。用事があるのならば、保安課の方がこちらに出向いて来い。連行に応じる気はない」旨を述べて同看守の連行の指示を断固として拒否したこと、

そこで、半田看守は、保安課事務室に帰り、これを上司に報告したので、同上司の命を受けた佐藤看守部長が、同日午後一時三〇分ころ、再度、原告を保安課取調室に連行するため、原告の居房に赴き、原告に対し、前同様に連行の指示をしたところ、原告は、前同様に同看守部長の右指示を断固として拒否したうえ、同看守部長に対し、強制的に連行しようとするならば抵抗する旨の発言をしたこと、

そこで、佐藤看守部長は、保安課事務室に帰り、これを上司に報告したので、松橋保安課長補佐(本部区長、看守長)は、同日午後一時三七分ころ、亀山係長(副看守長)、佐藤看守部長及び半田看守の三名を連れて原告の居房に赴き、房扉を開けたうえ、小机に向かい刑事裁判資料を読みながら右手にボールペンを持つてノートに筆記をしていた原告に対し、取調べがあるから出房するように指示したが、原告があくまでもこれを拒否する旨断言したので、やむなく、佐藤看守部長及び半田看守に対して強制的に連行することを命じたこと、これを受けた同職員らが原告の居房内に立ち入つたところ、原告が、右手に持つていたボールペンを逆手に持ちかえ、足で小机を蹴つて立ち上がつたので、佐藤看守部長において原告の右腕を抑え、半田看守においてその左腕を抑えながらボールペンを取り払つたうえ、原告を出房させようとしたが、原告がなおも両肩を揺さぶり足を踏ん張つて出房に抵抗したため、松橋保安課長補佐において原告の左腕を引つ張り、ようやく、原告を出房させることができたこと、原告は、出房後も、「何をするんだ」などと大声を出しながら激しく抵抗し、職員らを足蹴りしようとして暴れたので、更に駆けつけた池野保安課長補佐及び鳥羽山看守部長らが加つて原告の暴れるのを抑制しようとして、右全職員で原告を担ぎ上げたが、原告がなおも「この野郎」などと大声で怒鳴りながら、身体全体を激しく動かして暴れたため、松橋保安課長補佐は、原告につき抗弁事犯に関して取調べることも居房に収容することも困難であると判断し、同日午後一時四五分、原告を保護房に連行して収容したうえ、直ちに、支所長に対し、右事実経過を報告するとともに、原告の保護房収容につき支所長の決済を求める手続を経て、支所長から同決済を得たこと。

(5) 原告は、保護房収容当日である同月九日においては、房扉を多数回足蹴りしたり、房扉や視察孔を手拳で乱打したり、浅野医務課長(医師)が診察のために同房に赴くや「お前には用はない」と怒鳴るなどして興奮状態を持続しており、同月一〇日においては、朝夕の点検、食事の支給及び視察の際などに、職員に対し、「うるせえ」「理由を言え、この野郎」」「食事なんか、いらねえ」と怒鳴るなど粗暴な反抗的態度を持続しており、同月一一日においては、朝の点検時にはこれに応じないものの小さな声で独言を発し、食事の支給時にはこれを拒否するものの「いらないよ」と返答し、浅野医務課長が診察のため房内へ入つた時には「診察は拒否する、必要ない」と言つてこれを拒否するなど反抗的姿勢は持続していたものの、房内で暴れたり職員に対して怒鳴るなどの粗暴な言動はなくなり、同月一二日においては、朝の点検時には無言でこれに応ぜず、朝食の支給時には「いらねえ、いらない」とこれを拒否するなど反抗的姿勢は持続していたものの、房内で暴れたり職員に対して怒鳴るなどの粗暴な言動もなく、落着いた状態であつたこと。

そこで、支所長は、同日午前一〇時八分、原告の保護房収容を解除することとし、松橋保安課長補佐は、直ちに、その執行をして原告をその居房に連行したこと、

以上の事実が認められ、〈証拠〉は、前顕証拠に照らして措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定の事実によれば、原告は、本件保護房収容の直前、職員の指示に反抗して、これを徹底的に無視し、職員から再三にわたり出房を求められたにもかかわらず、これに断固として応じなかつたばかりか、出房させようとする職員に抵抗して暴行を加え、職員の制止に従わず大声を発したものであつて、そのまま還房したときには、従前の態度及び当時の興奮状態等に照らして職員に暴行し又は大声を発するおそれがあつて、一般房に拘禁することが不適当であつたものと認めるのが相当である。

(三)  ところで、在監者に対する戒護措置として保護房に収容することの必要性についての判断は、支所長の裁量に属するものであるが、その裁量権の行使が社会観念上著しく妥当性を欠き、権限濫用にわたると認められる場合にのみ、保護房への収容が違法となるものというべきである。

そうすると、前記認定事実に照らせば、本件保護房収容をもつて、社会観念上著しく妥当性を欠き、支所長に付与された裁量権の範囲を逸脱したものとまでは断定することができない。

なお、原告は本件保護房収容期間中に体力健康が著しく劣弱化した旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがつて、原告の本件保護房収容が違法である旨の主張は採用することができない。

三原告は本件保護房収容期間中に違法行為があつた旨主張するので、判断する。

1  原告は、原告が本件保護房収容期間中に職員に対し弁護士への連絡の要求及び刑事裁判に用いる意見陳述書作成用具を入れて欲しい旨の要求をしたにもかかわらず、職員がこれに応じなかつた旨主張するところ、〈証拠〉中右主張に副う部分は、〈証拠〉に照らして、これを措信することができず、他に右を認めるに足りる的確な証拠はない。

2  原告は、本件面会拒否が違法である旨主張するので、検討する。

未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであつて、右の勾留により拘禁された者は、その限度で身体的行動の自由を制限されるのみならず、前記逃亡又は罪証隠滅の防止の目的のために必要かつ合理的な範囲において、それ以外の行為の自由をも制限されることを免れないのであり、このことは、未決勾留そのものの予定するところでもある。また、監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたつては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、この目的のために必要がある場合には、未決勾留によつて拘禁された者についても、この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは、やむを得ないところというべきである。

未決勾留によつて拘禁された者は、前記拘禁目的上、本来、外部の者と隔離して身体の自由を拘束される関係から、外部の者との接見につき所要の制限を受けることは当然であり、当該監獄における接見需要の多寡、監獄の人的、物的戒護能力及び当該接見の目的、緊要性その他諸般の事情の下において、接見の許容が拘禁目的を阻害し、監獄の正常な管理運営に支障をきたすおそれがある場合には、これを制限されることもやむを得ない。そして、具体的場合における接見の制限については、監獄内の実情に通暁し、直接その衡にあたる監獄の長による個々の場合の具体的状況のもとにおける裁量的判断にまつべき点が少なくないから、接見の許容が拘禁目的を阻害し監獄の正常な管理運営に支障をきたすおそれがあるとした長の認定に合理的な根拠があり、その防止のために接見制限が必要であるとした判断に合理性が認められる限り、長の接見制限は是認すべきものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原告の兄が本件保護房収容期間中に職員に対して原告との面会を求めたところ、職員が本件面会拒否をしたことは当時者間に争いがないところ、〈証拠〉によれば、原告の兄の右面会申出は昭和五七年八月一〇日午後一時六分に安否伺いの目的でなされたこと、同人の住所が東京都新宿区であつて、支所からさ程遠方でもないので容易に再び支所を訪れることができること及び本件面会拒否は支所長の委任を受けた保安課職員がなしたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、原告は、同日は戒護の措置が講じられてから二日目であり、前日のような興奮状態にはなかつたものの、職員に対し怒鳴るなどの粗暴な反抗的態度を持続していたものであることは、前記認定のとおりであるうえ、〈証拠〉によれば、原告は興奮しやすい質であり、野球放送で応援しているチームの戦況をきいて興奮し、脈も早くなるほどであることが認められる。

以上の事実によれば、原告の兄の面会目的には特に緊急の用事があつたことは窺われないうえ、容易に再び面会に訪れることもできるが、原告は戒護措置を受けている身であるのみならず、兄と面会した場合には、再び興奮し、職員に対し大声を発したり、粗暴な振舞いに及ぶおそれさえもあつたともいうことができる。

そうすると、支所長の委任を受けた保安課長が本件面会拒否をしたことは必要かつ合理的な措置であつて、裁量権を逸脱した違法はないものといわざるをえない。

3  したがつて、原告の本件保護房収容期間中に違法行為があつた旨の主張は採用することができない。

四原告は、本件各懲罰処分並びに本件第一回懲罰期間中において原告に対して戸外運動及び入浴を禁止したことが違法である旨主張するので、判断する。

1  監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたつては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、監獄の長は、これを乱す者がいる場合には、その者が未決勾留によつて拘禁されている者であつても、その者に対し、必要にして合理的な範囲内において行政上の制裁である秩序罰としての懲罰を科することの許されることは当然である。

そこで、法は、「在監者紀律ニ違ヒタルトキハ懲罰ニ処ス」(五九条)と定め、かつ、その懲罰の種類、内容及び併科について明らかにし(六〇条)たうえ、規則一九条一項は、「所長ハ在監者ノ遵守事項ヲ入監者ニ告知ス可シ」、同二二条二項は、「在監者遵守事項ハ冊子トシテ之ヲ監房内ニ備ヘ置ク可シ」と定め、そして、規則一五七条ないし一六六条は、懲罰の言渡、執行手続、執行と健康との関わり等について規定している。法及び規則の右各規定は、監獄の長に懲罰権のあることを明らかにしたうえ、懲罰の種類、内容等を具体的に定めるとともに、監獄の長が当該施設の物的、人的状況に応じた遵守事項を定めてこれを在監者に周知させることによつて、懲罰対象事由を明らかにして監獄内部の規律及び秩序の維持をはかることを明らかにしているものと解するのが相当である。

法の定める懲罰及び規則の定める遵守事項が右のような性格のものであることからすると、監獄の長が未決勾留によつて拘禁された者に対しても遵守事項を定め、その違反者に対して懲罰権を行使できることは、当然の事理であり、また、監獄の長が、如何なる規律又は秩序違反行為につき、如何なる手続により、如何なる種類、内容の懲罰を科し、又は併科するかについては、その裁量事項に属するものといわざるをえない。

したがつて、法又は規則は、懲罰処分手続につき対審的構造とか、告知聴聞の機会付与とか、弁護権の保障についての定めを設けなかつたものであり、また、秩序罪たる懲罰処分手続につき、右のような措置が必要であると解すべき法令上の根拠もない。

そうすると、原告のこれに反する主張(請求の原因4(一)(2)(3)、同5(二)、同6(二))は、それ自体失当である。

2  監獄の長の裁量権の行使としてなされる前記懲罰処分も、懲罰対象事由の内容、選択された懲罰の種類、内容等に照らして社会通念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものと認められる場合においては、当該懲罰処分は違法であるといわざるをえない。

そこで、本件各懲罰処分及びその経緯についてみるに、請求原因2項(二)ないし(四)の事実(ただし、、同(三)のうち、本件第二回懲罰期間終了日が昭和五七年九月二九日であること、及び同(四)のうち、本件第三回懲罰期間終了日が同年一〇月一五日であることは除く。)は当事者間に争いがない。

右事実に加え、〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  支所においては、施行規則一九条一項に基づき、未決勾留によつて拘禁されている者の遵守事項を定めたうえ、昭和五四年三月には、同遵守事項等の記載された「未決収容者のしおり」と題する小冊子を作成し、これを各舎房内に備え置いていたこと、原告の居房にもこれが備え置かれていたこと。

「未決収容者のしおり」には、「第十遵守事項」と題して、四三項目の遵守事項が掲記されているとともに、遵守事項に違反したときは、法五九条によつて懲罰を科されることがある旨明記されていること、

遵守事項6は、「(拒食)要求又は反抗の手段として、職員の指示に従わずに拒食を続けてはならない。」、同36は、「(抗弁等)法令、生活の心得又は作業実施上等の必要に基づく刑事施設の職員の職務上の指示に対し、抗弁、無視、嘲弄その他の方法で、これに反する態度をとつてはならない。」、同39は、「(連行等の拒否)正当の理由がなく、出廷、移送、転房、取調等のための職員の呼出し又は連行を拒否してはならない。」とそれぞれ定めていること、

(二)  支所においては、遵守事項違反行為と目される行為があると、これにつき取調べに付し、職員等からの事情聴取や違反行為者本人の取調べをしたうえ、支所長、保安課長、指導課長、保安課長補佐、同課係長等で構成される懲罰審査会を開催し、同審査会の席上に違反行為者本人を出頭させて弁解の機会を与えた後、支所長において懲罰処分の採否、種類及び内容を決定し、懲罰処分に付することとした場合には、支所長又はその委任を受けた者において、原則として保安課会議室で厳粛に当該懲罰処分の言渡しをした後、直ちにその執行をし、当該懲罰期間終了日の翌朝に執行終了の言渡しをしてその執行を終了することにしているが、懲罰審査会への弁護人の出席は認めていないこと、

(三)  保安課職員は、原告の昭和五七年八月四日の小栗看守に対する本件言動を遵守事項36に違反する抗弁事犯、原告の同月九日(本件保護房収容当日)の半田看守、佐藤看守部長及び松橋看守部長らに対する三度にわたる連行拒否並びにそれに引き続く暴行等(以下「本件第一回連行拒否」という。)を遵守事項39に違反する連行拒否事犯として、各取調べに付し、

同月一八日、原告を保安課取調室に連行したうえ、事実関係を確認し弁解を聴取しようとして質問をしたが、原告は、質問に対してすべて黙秘をし、供述調書への署名、指印も拒否したこと、

同月一九日、支所長、浅沼保安課長、佐伯指導課長、池野保安課長補佐、相澤係長、亀山係長をもつて構成する懲罰審査会は、本件言動及び本件第一回連行拒否につき懲罰を科するか否かを審査し、同日、支所長は、右審査会の意見を聴いたうえ、法五九、六〇条に基づき、原告に対し一五日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する旨の本件第一回懲罰処分を決定し、同月二〇日午後三時ころ、浅沼保安課長をして同処分の言渡しをさせ、これが即日執行され、同懲罰期間終了日の翌日である同年九月四日朝、同処分の執行終了の言渡しがなされてその執行が終了したこと、

なお、佐藤看守部長は、右審査会の開催に先立ち、原告に弁解の機会を与えるため、原告に対して右審査会への出席を求めたところ、原告はこれを拒否し、また、その際、同看守部長が弁解書の作成提出を指導したが、原告はその提出をしなかつたこと、

(四)(1)  原告は、支所の規律に抵抗する闘争をしていたが、本件第一回懲罰は、かかる原告の行動に対する当局の攻撃であつて違法、不当であるとし、これに対し、一層徹底した抵抗闘争で当局と対決するとし、東京拘置所に拘禁されている同志の闘争と連帯して、支所に拘禁されている同志の支所当局に対する統一的一斉の戦宣布告をし特にハンガーストなどをもつて対決することとして、同懲罰期間の初日である昭和五七年八月二〇日の夕食から同月三一日の昼食まで継続して合計三三食を拒食し(以下「本件第一回拒食」という。)、更に、同月二〇日の夕点検から同年九月四日の朝点検までの間の点検をすべて拒否したこと(以下(本件点検拒否」という。)、

(2)  原告は、拒食のため、同年八月三〇日ころから、顔面及び身体各部に多数の小さく赤い湿疹ができたが、同月三一日の夕食から食事を摂り始めると三日位で右湿疹が消退したこと、

職員は、原告の拒食が続いたこと及び原告が同月二四日に腰痛を訴えたことなどから、同日から同年九月二日までの間毎日原告を医師に受診させたが、原告は原告自身が必要と認めた時に、その必要な限度で受診すれば足りるとして、素直に健康診断を受けようとせず、職員が居房から実力で原告を連れ出すという状況であつたこと、医師は、腰部レントゲン写真撮影、体重測定などの検査をし、また、腰痛に対しては湿布薬の塗布又は交付、湿疹に対しても薬を交付し、更に、食事を摂ること、少なくとも水を飲むように注意し、また、右湿診は拒食のせいであるので食事を摂るようにアドバイスしたこと、

(3)  支所においては、職員が、在監者の人員を確認し、その顔色挙動等を観察して健康状態等を把握するために、朝の開房時(概ね午前七時ころ)及び夕の閉房時(概ね午後五時ころ)に在監者を房扉方向に向けて正座させた状態でその呼称番号を称えさせ、点検をすることになつているが、これは支所における在監者管理上の基本的業務の一つとなつていること、

(4)  支所においては、軽屏禁の期間中、受罰者の運動及び入浴を禁止しているが、軽屏禁の執行にあたつては、執行の前には入浴させ、その後週二回の割合で受罰者の居房に湯を配つて体拭きをさせることとし、更に、軽屏禁の期間が一〇日を超えるときは、一〇日を経過した直近の入浴日に入浴させ、また、同期間を経過した直近の運動日に運動をさせることとしていること、支所長は、同年八月二〇日本件第一回懲罰処分言渡し日においては、原告に対し同月三〇日に運動をさせ、同月三一日に入浴をさせる予定にしていたが、原告が同懲罰期間の初日である同月二〇日の夕食から同月三一日の昼食まで継続して拒食していたため、原告の入浴及び運動が健康上差支えがあると判断し、浅野医務課長の意見を聴いたうえ、同月三〇日に、右予定を変更して、原告の入浴及び運動を禁止したこと、しかし、職員は、一五日間の同懲罰期間のうち、少くとも同月二〇ないし二四日、二七日、二八日、三〇日、三一日の八日間、原告の居房に湯を配つて体拭きをさせていること、

(五)(1)  保安課職員は、原告の本件第一回懲罰期間中の本件第一回拒食が遵守事項6に違反する拒食事犯、同期間中の本件点検拒否が遵守事項36に違反する点検拒否事犯として各取調べに付し、昭和五七年九月二〇日午後一時三五分ころ、佐藤看守部長が原告の居房に赴き、原告に対し、取調べがあるので出房するように指示したが、原告は、「断わる」と答えてこれを拒否したこと、そこで、佐藤看守部長は保安課事務室に戻つてこれを上司に報告したので、同日午後一時四〇分ころ、松橋保安課長補佐、池野同補佐、亀山係長、田島看守部長、佐藤看守部長、花田看守及び半田看守とともに原告の居房に赴き、原告に対して同様に出房を指示したが、原告は、居房に座り込んだまま知らん顔をしてこれを無視し、更に、松橋保安課長補佐から「どうしても出ないのか」と聞かれるや、「権利だ」と答えて出房の指示に応ずる気配を見せなかつたこと(以下「本件第二回連行拒否」という。)

(2)  そこで、松橋保安課長補佐は、直ちに、職員らを指揮して、原告を保安課取調室に強制的に連行したうえ、同課職員は、同日、本件第一回拒食及び同点検拒否並びに本件第二回連行拒否につき事実関係を確認し弁解を聴取しようとして質問をしたが、原告は、質問に対してすべて黙秘をし、供述調書への署名・指印も拒否したこと、

同月二一日、支所長、浅沼保安課長、佐伯指導課長、松橋保安課長補佐、池野同補佐、亀山係長をもつて構成する懲罰審査会は、本件第一回拒食及び同点検拒否並びに本件第二回連行拒否につき懲罰を科するか否かを審査し、同月二二日、支所長は、右審査会の意見を聴いたうえ、法五九、六〇条に基づき、原告に対し七日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する旨の本件第二回懲罰処分を決定したこと、

なお、佐藤看守部長は、右審査会の開催に先立ち、原告に弁解の機会を与えるため、原告に対して右審査会への出席を求めたところ、原告は、これを拒否したこと、

(3)  支所長は、本件第二回懲罰処分の言渡しを浅沼保安課長にさせることとしたので、花田看守は、同日午後三時一五分ころ、同懲罰処分言渡しのために原告を保安課会議室に連行すべく、原告の居房に赴き、原告に対し、懲罰の言渡しがあるので出房するように指示したが、原告は、同看守をにらみつけて「行く必要がない」と一言発するのみで、その後同看守の再度の出房の指示を無視したこと、そこで、同看守は保安課事務室に戻つてこれを上司に報告したので、同日午後三時二〇分ころ、松橋保安課長補佐は、池野同補佐、佐藤看守部長、川北看守及び伊東看守とともに原告の居房に赴き、原告に対して再々出房を指示したが、原告はこれに応ずる気配を見せず、居房に座り込んだままであつたこと(以下「本件第三回連行拒否」という。)、

(4)  そこで、松橋保安課長補佐は、直ちに職員らを指揮して、原告を保安課会議室に強制的に連行したうえ、同日、支所長に代り、浅沼保安課長が原告に対し本件第二回懲罰処分の言渡しをし、これが即日執行され、同懲罰期間終了日の翌日である同月二九日朝、同処分の執行終了の言渡しがなされてその執行が終了したこと、

(六)  原告は、本件第二回懲罰処分もまた違法、不当であるから、これに徹底的に抵抗し、対決するとして、同懲罰期間の初日である昭和五七年九月二二日の夕食から同徴罰期間終了日である同月二八日の夕食まで継続して合計一九食を拒食したこと(以下(本件第二回拒食」という。)

(七)  保安課職員は、原告の本件第三回連行拒否が遵守事項39に違反する連行拒否事犯、原告の本件第二回懲罰期間中の本件第二回拒食が遵守事項6に違反する拒食事犯として、各取調べに付し、昭和五七年一〇月七日、原告を保安課取調室に連行したうえ、事実関係を確認し弁解を聴取しようとして質問をしたが、原告は、質問に対してすべて黙秘をし、供述調書への署名・指印も拒否したこと、

同日、支所長、浅沼保安課長、佐伯指導課長、松橋保安課長補佐、池野同補佐、相澤係長、亀山係長をもつて構成する懲罰審査会は、本件第三回連行拒否及び本件第二回拒食につき懲罰を科するか否かを審査し、同月八日、支所長は、右審査会の意見を聴いたうえ、法五九、六〇条に基づき、原告に対し七日間の軽屏禁及び文書図画閲読禁止の各懲罰を併科する旨の本件第三回懲罰処分を決定し、同日午後三時ころ、支所長に代り、浅沼保安課長が同処分の言渡しをして、これが即日執行され、同懲罰期間終了日の翌日である同月一五日朝、同処分の執行終了の言渡しがなされてその執行が終了したこと、

なお、佐藤看守部長は、右審査会の開催に先立ち、原告に弁解の機会を与えるため、原告に対して右審査会への出席を求めたところ、原告は、右審査会に弁護士の立会が認められるならば出席する旨の記載された申立書(甲第一三号証)を提出したが、同看守部長が浅沼保安課長の指示により右申立書記載の要求は認められない旨の回答を告知すると、原告は、「それなら拒否する。」と言つて右審査会への出席を拒否し、また、その際、同看守部長が弁解書の作成提出を指導したが、原告はその提出をしなかつたこと

以上の事実が認められ、〈証拠〉各記載部分は、前顕証拠に照らして措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3 前項の認定の事実に加え、前記二3認定の事実によれば、原告は、政治的思想的な立場から、支所の規律及びこれに基づく職員の指示に従うことは奴隷的服従を肯定することになるから、原告自身はこれに抵抗し、打破する獄中戦士であるとして、懲罰は覚悟のうえで、あえて右規律違反行為に及んだものというべきであるから、小栗看守が原告の面会連行のために原告の氏名確認行為をしたのに対し、これに反抗する言動を弄してこれに抵抗したのであるから、原告の本件言動は、前記遵守事項36に違反するものといわざるをえない。

また、本件第一回及び第二回連行拒否は、いずれも職員が原告の遵守事項違反行為の有無についての事実関係を確認し、弁解を聴取する取調べのために保安課取調室へ連行しようとしたのに対して、原告があえてこれを拒否したものであるから、右各連行拒否は、前記遵守事項39に違反するものであるといわざるをえないし、更に、本件第三回連行拒否もまた、職員が、原告に対する第二回懲罰処分言渡しのために保安課会議室へ連行しようとしたのに対して、原告があえてこれを拒否したものであるから、右連行拒否は、遵守事項39に違反するものであるといわざるをえない。

そして、本件第一回及び第二回拒食並びに本件点検拒否は、いずれも、原告が支所における規律に徹底的に抵抗し、これを打破するための抗戦として行われたものということができるから、右各拒食については、前記遵守事項6に、点検拒否については、前記遵守事項36に各違反するものであるといわざるをえない。

もつとも、本件第一回懲罰期間中において、原告に対して戸外運動及び入浴をさせなかつた(当事者間に争いがない。)が、本来、軽屏禁は受罰者を昼夜を通じ罰室内に屏居させ(法六〇条二項)て謹慎させ、精神的孤独の痛苦により改悛を促すことを目的とする懲罰であるから、その性質からして戸外運動の停止を当然に伴うものであると解されるうえ、支所長は当初、原告に対し本件第一回懲罰期間の初日から一〇日目である昭和五七年八月三〇日には運動をさせ、その翌日には入浴させる予定にしていたが、原告が本件第一回拒食をしたため、医師とも協議のうえ原告の健康に配慮して右予定を変更し、原告の入浴及び運動を禁止するに至つたものであり、なお、職員は、一五日間の同懲罰期間のうち少くとも八日間は、原告の居房に湯を配つて体拭きをさせており、また、同懲罰期間中に原告の健康状態についても医師に適宜受診をさせるなどして原告の健康管理に配慮していたものであるということができるが、戸外運動及び入浴をさせないことによつて原告の健康が損われたものとまではいうことができない。

なお、原告は、本件第二回連行拒否につき、黙秘権を有しいかなる供述の強制も受けない自由を有するから右拒否をした旨主張するが(請求の原因5項(一))、右連行自体は、黙秘権等の存在とは関わりないことが明らかであるから、右主張はそれ自体失当である。

また、原告は、懲罰処分言渡しのための連行は懲罰を背景に強制されるべきではない旨主張するが(請求の原因6項(一))、懲罰処分言渡しは規則一五九条に基づいて懲戒権者の言渡しによつて行われるものであるところ、そのためには在監者が懲戒権者の面前に連行されることが必要であり、在監者が右連行さえも拒否することの許されないことは明らかであるから、前記認定のとおり、職員の指示に抵抗してこれを拒否し、任意の連行に応じない以上、秩序罰である法の定める懲罰事由とされてもやむをえないものといわざるをえない。

更に、原告は、拒食が拘禁された在監者のなしうる唯一の自己の生命を賭した抗議方法であるから、これに対して懲罰を科すべきではない旨主張する(請求の原因5(一)、6(一))が、在監者が要求又は反抗の手段として拒食を続けることが許容されるものとすれば、監獄の正常な管理運営が困難となり、混乱に陥るおそれのあることが明らかであるから、右主張自体失当である。

4  以上の事実によれば、本件各懲罰処分は、その処分理由となる懲罰対象事由が存在し、その内容、選択された懲罰の種類、内容等に鑑みると、いずれも社会通念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものであるということはできない。

五以上によれば、本件保護房収容及び本件各懲罰処分には国家賠償法一条一項にいう「違法性」がないものといわざるをえない。

六よつて、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官古館清吾 裁判官橋本昇二 裁判官足立謙三は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官古館清吾)

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